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本郷給水所と東京市水道の鉄蓋

竣工時の給水所

明治23年 (1890年) 7月23日に「東京市水道設計」が東京市告示第50號として告示、翌明治24年 (1891年) 12月14日に東京市告示第47號「東京市水道設計中改正追加」で改正されました。この中で、淀橋淨水工塲と本鄕給水工塲、芝給水工塲が計画されました。

海面上二十尺ノ地ヲ境界トシテ全市ヲ高低ノ二給水區域ニ分チ淨水工塲內ニ喞筒機及ヒ淨水池ヲ備ヘテ高地ノ給水工塲トシ又 淨水工塲ヨリ自然流下法ニテ水ヲ本鄕芝近傍ノ二箇所ニ分送シ此ニ淨水池及喞筒機ヲ備ヘテ低地ノ給水工塲トス

標高6m以上の高地には四谷區、赤阪區、麻布區の全域と芝區、麹町區、牛込區、小石川區、本鄕區、神田區の一部が該当し、低地は日本橋區、京橋區、下谷區、淺草區、本所區、深川區全域と芝區、麹町區、牛込區、小石川區、本鄕區、神田區の残りの区域を指していました。

タイル絵

明治25年 (1892年) から用地買収などが行われ、一部の本工事が始まりました。明治26年 (1893年) 10月22日に約3000名の来賓を迎えて淀橋淨水工塲建設予定地で改良水道起工式が盛大に挙行されました。このとき来賓輸送用の特別列車が上野駅と新橋駅から運転されました。

淨水池

其數三個ニシテ之ヲ淀橋町淨水所、本鄕元町及ヒ芝榮町各給水所ノ三箇所ニ分設シ尚ホ各池ヲ二ツニ分テリ此合容積ハ三百萬立法尺(四十六萬二千六百九十石)トス各池ノ周圍ハ淀橋ニ於テ長三百六十尺幅二百五十三尺深十二尺、本鄕及芝ニ於テ長三百十尺幅二百十九尺深十五尺ニシテ總面積六千三百四坪ナリ淨水池ニハ總テ覆蓋ヲ爲セリ
淀橋淨水池ハ明治二十五年九月築造ニ着手シ同三十年六月落成セリ
本鄕淨水池ハ明治二十六年二月築造ニ着手シ同二十八年九月池形漸ク成リタルモ其地質極メテ不良ナリシカ爲メ玆ニ長時間ノ耐力試驗ヲ爲スノ必要ヲ感シ一時工事ヲ中止シ專ラ其試驗ヲ行ヒタルモ別ニ異狀ヲ認メサルヲ以テ同三十年十月ヨリ再ヒ從前ノ工事ヲ繼續執行シ同三十一年十一月全部落成セリ
芝淨水池ハ同二十六年十二月築造ニ着手シ同二十九年八月落成セリ

空中写真風景 水道配管地図

淀橋淨水工塲から本郷給水工塲及び芝給水工塲への送水用として内径1100mm(42吋)の鉄管が敷設されました。本鄕給水工塲の建設工事は難航しましたが、明治31年 (1898年) 12月1日から神田區と日本橋區に給水を開始しました。

昭和15年 (1940年) 頃に陸軍によって撮影された空中写真で、浄水池が2つに分かれていることと周囲の街路が現在と同じ配置になっていることが確認できます。

風景 風景

昭和49年 (1974年) に本郷給水所の配水池拡張工事が行われた際に文京区が上部を公園化し、昭和51年 (1976年) 12月に文京区立本郷給水所公苑として開園しました。苑内には武蔵野の雑木林をイメージした和風庭園とフランス式の洋風庭園が設けられています。

風景 弁蓋

本郷給水所に隣接する東京都水道局本郷庁舎2号館前の路上に、東京市水道局の最古の鉄蓋が2組現存してます。1組は東京都水道歴史館の正面入口付近にあります。鉄蓋は2枚1組で、東京市章を合成した菱形ベースの地紋で、「水」と「道」の字がそれぞれ入っています。

風景 弁蓋

もう1組はこの蓋から順天堂大学方面に向かったところにあります。こちらは「水」の蓋が逆にはめられています。歩道脇には水道の歴史を描いた4枚のタイル絵が展示されています。前掲の「淀橋浄水場起工式」はこの中の1枚です。

これらの蓋は給水所竣工時の蓋であるかは定かではありませんが、現役の水道蓋としては東京で最古のものであると考えられます。恰も水道歴史館の屋外展示物として動態保存されているようにも見受けられます。

【参考文献】
東京市水道改良事務所 『東亰市水道要覽』 明治26年10月21日
東京市役所水道部 『東亰市水道小誌』 明治32年12月17日
東京市區改正委員會 『東京市區改正法規』 明治36年5月3日
東京市水道課 『東亰市水道小誌』 明治44年3月31日
林丈二 『マンホールのふた<日本篇>』 サイエンティスト社 1984年3月
東京都水道歴史館 『東京水道の歴史』 2003年9月9日
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【改訂】
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