東京の2桁市内局番【4】
(承前) 東京市に隣接していた荏原郡・豐多摩郡・北豐島郡・南足立郡・南葛飾郡(隣接5郡)では、明治39年開局の池上電話局を皮切りに、郵便局に併設される形で特設電話規則(明治38年4月20日遞信省令第34號、同年5月1日施行)に基づく電話局が26局設置されました。
特設電話
特設電話とは電話局内に関するもの以外の設備や維持にかかる費用を全て加入者自身が負担するもので、後日普通電話に切り替える際には国に無償提供するという条件が付加されていました。特設電話規則は明治41年9月29日遞信省令第43號(同年10月1日施行)で私設電話的色彩を改め政府の管理権を明確にするように改定されました。そして、特設電話規則は昭和12年10月1日遞信省令第73號(昭和13年1月1日施行)の電話規則第96條第2項により廃止されました。
隣接5郡の電話局
隣接5郡の電話局のうち半数以上の14局は関東大震災後の開局でした。後年、全局が特設電話から普通電話に切り替えらました。
局名 | 開局日 | 所在地 | 普通電話 | 備考 |
---|---|---|---|---|
池上 | M39.11.21 | 荏原郡池上町大字下池上字南町315 | × | |
大森 | M42.08.01 | 荏原郡入新井町大字不入斗字堀後349 | M45.04.01 | |
世田ヶ谷 | M42.11.21 | 荏原郡世田ヶ谷町大字太子堂字西山472 | T15.07.01 | T12.04.01町制施行 |
板橋 | M42.12.21 | 北豐島郡板橋町大字下板橋字金澤3279 | S03.10.01 | |
王子 | M42.12.26 | 北豐島郡王子町大字王子字柳田450 | S05以前 | |
赤羽 | M43.12.21 | 北豐島郡岩淵町大字赤羽字荒井前238 | S03.10.01 | |
中野 | M43.12.21 | 豐多摩郡中野町本町通四丁目11 | T12.10.01 | S06.01.01大字中野字橋塲3936から字名地番変更 |
千住 | M45.05.11 | 南足立郡千住町大字中居町65 | T08.04.01 | S05.03.23大字二丁目23から移転 S06.01.01大字二丁目字西1003から字名地番変更 |
蒲田 | T05.03.31 | 荏原郡蒲田町大字蒲田新宿60 | T15.10.01 | T11.02.10町制施行 |
玉川 | T05.12.26 | 荏原郡玉川村大字瀨田字根耕地1495 | × | |
新宿 | T08.04.21 | 南葛飾郡新宿町字町並3376 | × | |
羽田 | T12.08.06 | 荏原郡羽田町大字羽田字前耕地1104 | × | |
荻窪 | T13.10.06 | 豐多摩郡井荻町大字荻窪三丁目93 | S03.10.01 | T15.07.01町制施行 S06.02大字下荻窪172から字名地番変更 |
小岩 | T15.07.26 | 南葛飾郡小岩町大字下小岩字道面3172 | × | S03.11.10町制施行 |
練馬 | T15.10.06 | 北豐島郡練馬町字谷戶7070 | × | S04.04.01町制施行時に下練馬村から改称 |
荏原 | S02.03.31 | 荏原郡荏原町大字小山240-2 | ○ | S02.07.01平塚町から改称 |
本田 | S02.07.11 | 南葛飾郡本田町大字澁江字綾瀬川888-2 | S06.07.01 | S03.03.01町制施行 |
田園調布 | S02.07.16 | 荏原郡東調布町大字下沼部字中丸68 | S03.10.01 | S03.04.01町制施行時に調布村から改称 |
石神井 | S02.09.06 | 北豐島郡石神井村大字下石神井字池淵1296 | × | |
東小松川 | S03.03.25 | 南葛飾郡松江町大字東小松川字新道󠄁上3000 | × | |
砧 | S04.03.11 | 北多摩郡砧村大字喜多見成城字北358 | S06.07.01 | S05.05.01大字喜多見から分離 |
練馬上宿 | S04.06.21 | 北豐島郡練馬町字上宿279 | × | |
淵江 | S05.12.31 | 南足立郡淵江村大字六月398 | × | |
落合長崎 | S06.03.26 | 北豐島郡長崎町字荒井1890 | ○ | |
千歳烏山 | S07.05.26 | 北多摩郡千歳村大字烏山字西之谷624 | × | |
松澤 | S07.07.16 | 荏原郡松澤村大字松原字中原682 | ○ | 683番地に跨る |
"普通電話"欄:特設電話から普通電話に転換した日付、○開局時から普通電話、×特設電話のままでS13.01.01に転換
落合長崎局の敷地は長崎町字荒井1890番地と落合町大字下落合567番地とにまたがっていました。松澤局は松澤郵便局があった松澤村大字松原字七軒町837から100m程東に位置していました。
局の移転
町の急速な発展やそれに伴う郵便・通話取扱量の増大で移転した局があります。同じ大字内での移転の場合は遞信省告示での告示はなされません。
世田ヶ谷郵便局
世田ヶ谷郵便局は4回移転をしています。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
大字池尻字西町179 | M37.03.31 | 目黑郵便局から改称・移転 |
大字池尻字西町161 | M39 | |
大字三宿字南宿16 | M42.11.21 | 電話交換開始に伴う移転 |
大字太子堂字大塚356 | T14.12 | 局舎焼失による仮局舎 |
大字太子堂字西山472 | S02.12.25 | 新庁舎竣工による移転 |
詳細は別記事"世田谷郵便局の西進"に移動し、加筆しましたのでご参照下さい。
板橋郵便局
板橋郵便局は2回移転しています。昭和2年頃の移転は九號国道(中仙道・現国道17号)の新設に伴うものです。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
武藏國豐島郡下板橋宿字番場541 | M05.07.01 | |
大字下板橋字番場541 | M22.04.01 | 町村制により板橋町成立 |
大字下板橋字山之上760 | M40.07 | M42.12.21電話交換開始 |
大字下板橋字金澤3279 | S02頃 |
第一章 國道󠄁の改修
第四節 九號國道󠄁
九號國道󠄁(中仙道󠄁)の改築區域は巢鴨町巢鴨橋際より西巢鴨、瀧野川等を經て板橋町の舊國道󠄁と川越街道󠄁の交叉點に至る延長千六百二十九間(幅員十二間半)である。
[中略]
巢鴨町市電終點より板橋町の終點に至る延長千五百四十間の區間は昭和三年竣功し、巢鴨橋より市電終點の間を同四年一月工事に着手して同年八月竣功せるを最後とし全線千六百二十九間は全部完了した。
赤羽郵便局
赤羽郵便局は『北豐島郡總覽』によると岩淵町大字赤羽内で2回移転しています。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
大字赤羽字荒井前295 | M24.01.01 | M43.12.21電話交換開始 |
大字赤羽字古屋敷414 | T04.07.16 | |
大字赤羽字荒井前238 | T08.01.20 |
中野郵便局
中野郵便局は『中野町誌』によると中野町大字中野内で2回移転しました。昭和5年3月30日に郵便局とは別の場所に電話局舎が竣工し、同時に自動交換化が行われました。本町通󠄁四丁目11番地は現在のNTT中野ビル(NTT東日本 中野電話交換所)がある場所です。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
大字中野字下町4200 | M14.11.06 | |
大字中野字下町4159 | M36.06.04 | M43.12.21電話交換開始 |
大字中野字宮前282 | T14.12.25 | S06.01.01字名地番改正で本町通󠄁二丁目34 |
大字中野字橋塲3936 | S05.03.30 | 電話局舎新築 |
本町通󠄁四丁目11 | S06.01.01 | 字名地番改正 |
千住郵便局
千住郵便局は千住宿内で2回移転しています。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
武藏國北豐島郡千住南組34 | M18.09.01 | |
北豐島郡南千住町大字千住南字南36 | M22.05.01 | 町村制により南千住町成立 |
千住町大字二丁目23 | M44.11.01 | M45.05.11電話交換開始/td> |
千住町大字二丁目字西726 | S05.02 | 本局 |
千住町大字二丁目字西1003 | S05.03.23 | 電話事務室 |
千住町千住中居町65 | S06.01.01 | 字名地番改正 本局は千住中居町63 |
千住中居町への移転の理由は『營繕管財局營繕事業年報 第二輯(自大正十五・昭和元年度至昭和五年度)下巻』に簡潔に記されています。
第二章 千住及大崎郵便局新營
第一節 千住郵便局局舎其ノ他新營
千住郵便局局舎ハ局舎用トシテ千住二丁目ニ民屋九十一坪七合五勺ヲ、分室用トシテ同三丁目ニ民屋九十一坪五合ヲ又倉庫用トシテ同四丁目ニ民屋十八坪ヲ各借入レ執務シ來リシモ震災後同地ノ急󠄁激ナル發展ニ伴󠄁ヒ郵便事務激增シタル爲著シク狹隘トナリタルノミナラズ分室、倉庫等各所󠄁ニ散在スル爲不便尠カラザルヲ以テ之ガ敷地ヲ買收シ昭和五年二月局舎ノ新營ヲ見タリ
蒲田郵便局
蒲田郵便局は『蒲田町史』によると蒲田町大字蒲田新宿内で2回移転しています。大字蒲田新宿4番地は現在の京急蒲田駅東口の国道15号沿い、60番地は昭和5年に架橋された蒲田橋北詰、133番地は現在の蒲田郵便局とNTT蒲田ビルがある場所になります。
所在地 | 移転日 | 備考 |
---|---|---|
大字蒲田新宿4 | M38.04.01 | 新宿國道󠄁通り T05.03.31電話交換開始 |
大字蒲田新宿60 | T14.12.11 | 逆川橋畔 蒲田倶楽部跡 |
大字蒲田新宿133 | S07.12 |
東京市内との通話
東京市内とは市外通話で、基本的には待時通話でした。昭和2年6月5日に大森局(大森発、大森着の即時化は同年11月15日)、昭和5年4月1日に中野局と千住局、昭和5年4月27日に荏原局が手動交換の即時通話になりました。
中野・千住・荏原の各局では即時化と同時に自動交換化されました。
(続く)
- 【東京の2桁市内局番】
- 東京の2桁市内局番【1】: 局番なしの時代
- 東京の2桁市内局番【2】: 震災と自動交換方式の採用
- 東京の2桁市内局番【3】: 震災復興期
- 東京の2桁市内局番【4】: 隣接5郡の電話
- 東京の2桁市内局番【5】: 東京市域拡大
- 東京の2桁市内局番【6】: 戦災から郵電分離まで
- 東京の2桁市内局番【7】: 電気通信省
- 東京の2桁市内局番【8】: 3桁局番誕生前夜
- 東京の2桁市内局番【9】: 3桁局番併用そして終焉
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